明るさは、窓の数では決まらない
窓を大きくすれば、部屋は明るくなります。けれど、明るさが均一に広がった部屋は、どこにいても同じ表情になります。朝と夕方の違いも、晴れの日と曇りの日の違いも、感じにくくなる。
私たちが「明るい家に」という言葉から聞き取ろうとしているのは、たいていの場合、光の量ではありません。朝、台所に立ったときに手元が見えること。冬の午後、ソファのそばに陽だまりができること。そうした「ある時間の、ある場所の明るさ」です。
影の位置から描きはじめる
そこで、設計の最初に描くのは平面図ではなく、太陽の高さを書き込んだ断面のスケッチです。金沢のあたりでは、冬至の正午の太陽は地平から約 30°、夏至には約 77°の高さを通ります。
この二つの角度のあいだで、庇の出と窓の高さを決めていきます。冬の光を奥まで入れたいなら窓は高く、夏の光を切りたいなら庇は深く。影の落ちる位置が先に決まり、窓の大きさはそのあとに決まります。
光を設計するとは、
影をどこに置くかを
決めることだと思っています。
光を決める三つの手順
実際の設計では、次の順番で考えています。
- いちばん長く過ごす時間を聞く平日の朝なのか、休日の午後なのか。家族ごとに答えは違います。
- その時間の太陽の位置を、断面に描く季節ごとに、光が床のどこまで届くかを確かめます。
- 窓を一つずつ消していく残った窓だけで足りるかを、模型に光を当てて確かめます。
鞍月の家では、この手順で最初の案から窓を半分に減らしました。残したのは、北の庇の下の横長の窓と、南の高い位置の窓の二つだけです。
暗さを、残しておく
窓を減らすと、家の中には暗い場所が生まれます。私たちはそれを欠点だとは考えていません。暗い廊下を抜けた先の部屋は、同じ明るさでも、ずっと明るく感じられます。
竣工から一年が経ち、住まい手から「冬の午後がいちばん好きな時間になった」という便りが届きました。足すことでは届かない明るさが、引き算の先にあるのだと思います。
